「甘く切ない修学旅行」


 僕の通っていた高校は県立で男女共学だった。で、数なら女の子の方が多く、8クラス中、2クラスが女の子オンリーという、なかなかの好条件だった。
 が、かと言って、僕の高校ライフがハーレムだったかと言うと、そんな事はまったく無く、乾いて乾いて仕方なかった(何が?)。今でこそ気楽に女の子と話しているが、昔は話すなんて恥ずかしくってなかなかできなかったのである。
 でも、高校生なんて異性と親しくする事くくらいしかやる事が無い(そうか?)。かくゆう僕も、やっぱり女の子とは親しくなりたかった。で、僕は同じクラスのKさんが好きだった。
 こんな事を言うと、彼女が怒るかもしれないが、正直に言いたい。彼女は誰が見ても可愛い、という女の子ではなかった。地味だったし、顔も美少女! という感じではなかった。でも、僕は彼女が凄く好きだったのである。
 今ここで告白するが、僕は地味な子が好きなのである。地味というか、大人しめの子が好きなのである。母性溢れるというか、世間に染まっていないというか、とにかくそういう子が好きなのである。どうしてなのかは分からないが、当時既にアニメオタク一直線だった僕は、二次元の清純さを三次元に求めていたのかもしれない。‥‥こんな書き方をすると、ちょっと哲学臭いが、ようはモテないからアニメキャラっぽい娘が好みだったわけである。こう書くとダメダメだな、まったく。
 でも、相手が大人しいからと言って、すぐに告白などできるわけがなく、ずっと片思いだった。そんな僕にも大きなチャンスがやってきた。
 それが高校二年の修学旅行である。


 高校二年の冬に、修学旅行が行われる事になった。場所は北海道の小樽。はっきりと覚えていないが、四泊五日か、五泊六日だったと思う。で、その内半分はクラスでの行動だったのだが、残りの半分はグループを作って各自好きにスケジュールを組んでいい、との事だった。
 このグループというのがなかなか曲者だった。絶対条件としてあったのが「必ず男女混合の7人グループにせよ」との事だったのである。
 僕は仲の良かったH君とY君の3人グループを組んだ。二人共口下手で女の子とはおろか、男の子ともあまり話さないタイプの友達だったが、僕は二人と親しかった。口下手だが裏切らない、いい奴らだったのである。
 で、男子が決まると、今度は女の子グループである。7人編成だから、女の子は4人という事になる。
 運良くKさんは4人のグループの中にいた。で、彼女以外の女の子の顔を見てみると、クラスの中でもトップクラスの地味な子達が揃っていた。類は友を呼ぶ、と言ったところか。(決してこれは悪口ではありません!)
 ちょっと話を反らすが、学生という生き物(?)は大きく分けると二種類いると僕は思う。「異性と気楽に親しくなれるヤツ」と「そうでないヤツ」の二種類である。前者の男の子はちょっと不良っぽいヤツが多く、女の子はちょっと化粧なんかしちゃって、尚且つ超セクシーな生足を惜しげも無く見せ付けている娘が多かった。対して後者は真面目君が多い。女の子は大人しめで少女漫画とかが大好き、というタイプの娘だ。これはいつの時代もそうだと思う。
 で、案の定と言うべきか、前者は前者同士でくっついた。そうなると後者は後者同士くっつく事になる。でも、僕はそれで良かった。いや、それが良かった。僕はH君とY君に、
「あのグループと一緒になろうよ」
 と告げた。二人はあんまし関心無さそうに、
「いいよ」
 と答えた。彼らにとっては誰でもいいようだったが、それがまたラッキーだった。
 そして、僕は意を決してKさんの肩を叩き、
「ねっ‥ねえ、良かったら一緒のグループにならない?」
 と告げたのである。それに対してKさんは
「うん、いいよ。みんなもいいよね?」
 と快諾してくれたのである。
 こうして、僕はめでたくKさんと同じグループになる事になったのである。
 H君もY君も女の子と話すのは大の苦手だった。そして、女の子の方も、男の子と話すのが苦手だった。その為か、どういう所を回ろうかという相談の際には僕とKさんが男女の掛け橋となったのである。更にKさんが班長、僕が副班長になり、僕とKさんの距離はググンと近づいたのである。心は近寄ってなくても、少なくとも実際の距離は絶対に近づいてました(そりゃ、そうだろ)。
「うーむ、まるで新婚の夫婦のようだ。で、残りの五人は子供だ」
 などと、ひどすぎる妄想を膨らませながらも、僕のグループは順調にスタートしたのである。


 そして旅行当日。生まれて始めての飛行場、飛行機である。更に、初めての北海道である。生まれて初めて生で見た飛行機はデカかった。子供のような感想だが、当時は本当に子供だったのである。
「これ‥‥墜落したら絶対に天国へゴーだな」
 などとH君と話しながら、飛行機は無事に出発した。まあ、今この話を書いてるんだから、当然ですが。
 僕はその時一番窓際に座っていて、Kさんはそこから何席か隣に座っていた。本当は隣同士になって色々話したかったのだが、そこまで神様は笑ってくれなかった。でも、その代わりに窓からの景色を見せてくれた。その景色はそれはもう、本当に綺麗だった。なんかこう、
「天国っちゅうのはこういうトコなのかもしれん」
 なんて思った程である。雲が下に敷き詰められていて、太陽の光がその雲に美しいアンサンブルを描いていたのである。
 本当に綺麗だな、と惚けながら見ていると、Kさんから使い捨てカメラが回ってきて、
「外の景色をとって」
 と頼まれた。僕はドキドキしながらシャッターを切った。現像した写真は見なかったのでどんな写真ができたのかは分からなかったが、多分逆光が入ってあんまし綺麗にはとれてなかったと思う。
 そんな些細な出来事がありながらも、飛行機は無事に着陸し、僕達は北海道についたのである。


 正直に言うと、どんなホテルでどんな仲間達と夜を過ごしたのか、という事はほとんど覚えていない。ただ、高2の時だったからどんな面々と一緒だったかは想像できるが、内容までは思い出せない。それほど、僕にとってはKさんとの思い出だけが濃かったのである。
 最初の三日はクラス行動だったのでこれと言った出来事は無かった。やたらとデカいタワー(北海道の小樽近辺に詳しい方なら知っていると思うのだが)の前でみんなして集まって、色々回った。というか、最初の日々もほとんど記憶に無い。その理由は前と同じような事を言う羽目になるので省略である。
 とにかく最初の3日を無事過ごし、残り半分になった。ここからはグループ行動で、僕にとって、本当にもう天にも昇る3日間だった。
 どこに行ったのかはよく覚えている。まずラーメン横丁である。これはもはや修学旅行の定番で、何だか下町みたいなグチャとした通りに入って味噌ラーメンを食べた。美味しかった。隣がKさんではなく、H君だったのが今でも悔やまれる。(Hよ、許せ)
 次はオルゴール館である。ここも定番中の定番らしく、その名前の通り様々なオルゴールが売っているのである。ここでは念願叶って一緒にオルゴールを見た。そして僕は銅色の車と船のオルゴールを買った。それは今でも自分の部屋に飾ってある。
 あとは、時間が無くて10分くらいしか見れなかった水族館。これは予定には組まれていたが、どうやらスケジュールを詰め込み過ぎたらしく、結果として10分程度しか回れなかったのである。
 こうして色々と語ってみると別に何か特別な事があったわけではなかった。だが、Kさんと一緒に行動できるという事が嬉しくて本当にもう、鼻血が出そうだった。
 今でもはっきりと覚えているのは、移動の際に電車に乗った時の事である。
 その時の電車はかなり混んでいて、僕とKさんは立って入り口近くに並んでいた。当時、彼女は髪の毛を長く伸ばしていて、背中が見えないくらいだった。僕はその長い髪の毛が凄く好きで、
「ねえ、そんなに髪のばして大変じゃないの?」
 とか言いながら彼女の髪の毛をサワサワと触った。彼女は、
「ちょっとね。でも、好きだから」
 と言って笑ってみせた。僕はそんな彼女の笑顔にうっとりしながら、ずっと彼女の髪の毛を触っていた。
 これを読んでる方の中で「それってかなり変態臭くない?」なんて思っている方。その通りです(おい)。僕は今でもだが女性の髪の毛というのが異様に好きなのです。髪の毛フェチと言ってもいいでしょう。もしかしたら彼女が好きになったのは髪が長かったからかもしれない、なんて思う程です。
 あの時の一歩間違えれば変態プレイになりえたようなあの出来事。いやぁ、そんな事でさえいい思い出になる時代、いいですね。(そうか?)
話を戻して旅行の話。7人もの団体行動だったにも関わらず、僕とKさんは2人だけで一緒にいた時間が多かった。前述したが、他の子達は異性とまとめに喋れるタイプではなかったので、全体のまとまりを補うのに、僕とKさんは自然と一緒にいたわけである。
 それはデートだったと言っても過言ではないと思う。向こうはそんな事は思ってなかったと思うが、終始笑っていてくれたので、つまらなくはなかったと思う。とにかく、楽しくて仕方なかった。
 Kさんと一緒に行動した三日間の内、小樽でその年初めて雪が降った。


 で、旅行が終わり、クラス全員で日記にようなモノを書いた。よく文集なんかに載るヤツですよ。あれを書いたのである。
 その時、僕は将来漫画家になりたいと(ほんの少しだけ)思っていたので、文章は凄く控えめにして、全面に絵を書いた。確か、ラーメンをみんなして食べている絵だったと思う。
 本当は僕とKさんだけを書きたかったのだが、それではあまりにも不公平だと思い、とりあえず7人全員の絵を書いた。でも、そのバランスが悪かった。Kさんだけを思い切り可愛く書き、他の面々を適当に書いた為、それを見た友達がみんなして、
「お前、Kさんが好きなんだろう〜? ああっ?」
 と言われて困った。でもまあ、真実なんで包み隠さず言った。あまりにも正直に言うと、みんな納得してくれて、僕はその日を境に「Kさん大好きっ子」になったのである。
 もっとも、彼女はその事は知らなかったと思うが。


 とにかく、あの時の修学旅行は生涯忘れないと思う。それくらい楽しかった。高校生活の中でも特に思い出深いものだった。
 後日談としては三年生の最後にKさんに告白して思い切りフラれてしまうんですけどね。まっ、何も言わずに卒業してしまうより、よっぽどマシですよね?
 高校卒業後、僕は私立大学に進み、彼女がどこに行ったのかは知らない。でもきっと、彼女の事だ。素敵な男の奥さんになっているか、社会人として頑張っているかしているでしょう。僕がわざわざ心配する必要も無い程元気にね。
                                                                       終わり
(もしもこのエッセイを読んでピンッと来た方、是非ご一報ください)


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